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第2話

 

完成したソードメイスを嬉しそうに、大事に抱えながら
その後二人で座り込んで色々な話をした。

プリーストの名前はセス。
ミーシャより4つ年上で
プリーストとして修行して得ることができる
この世界ではスキルと呼ばれているいくつかの免許が
あともう少しで、最後の50個目に達するということだった。
「うわぁ・・すごいんですね。私はあと、6つ残ってるんです。
 がんばって免許取得のための経験値を稼がなくちゃいけないんだけど・・・。」
そう言って目を伏せ、寂しそうに微笑む。
「でも・・ミーシャだってすごいですよ?
 製造型のブラックスミスは、戦闘のための力を伸ばすことができないのに
 そこまでの免許を習得できているなんて、すごいじゃないですか。」
言いながら、ミーシャの服に「ギルドエンブレム」と呼ばれる、
王国から認証されたギルドのメンバーがつける紋章がどこにも縫いつけられていないことに気づき
「どこかのギルドに入ったりして、手伝ってもらったりしたわけではないのですか?」
そう問い掛ける。
「・・・えっとね・・・少し前まで・・ギルドに入っていたんだけどね・・・・。」
「抜けてしまったのですか?どうして・・・・。」
セスの言葉に、また寂しそうな表情になりながらミーシャは話し始める。

「王様が、王国の各町を守るためのお城を用意したじゃない?」
「ええ。つい最近の話ですよね?」
「この国は人口がいっぱいで、とても強い人たちが多くて、
 で・・数少ないギルドのお城はすごく競争率が高くなって。」
「そうですね・・週に一度行われている攻城戦は、
 磁場を狂わすほどのものすごい戦いが行われていますよね。」
「それで、私がいたギルドのマスターが他国への移住を提案したんですよ。
 この国からすごく遠く離れた、まだ人口も少ない国で暮らしやすい場所がある って言って
 移住したら、まったくゼロからやり直さなくちゃいけなくて・・すごく大変なんだけど
 どうしてもお城が取りたいって・・・ギルドのほかのメンバーもそれに賛成してね。」
「・・・・・・・・・。」
ミーシャの話を聞き、セスは黙り込み、
静かにミーシャの話を聞きつづける。
「私も一緒についていきたい って思ったんだけどね・・・。
 私がここまでなるために、ずっと手伝ってくれて
 辛いこととか、楽しいこととか、色々乗り越えてきた仲間だったし・・。」
「・・・どうして・・一緒に行かなかったのですか?そんな大切な仲間・・なのに・・。」
「ん・・だって、私がここまでなるのに、みんなにいっぱい迷惑かけて
 みんなの足引っ張ったりとかして・・・
 やっと・・みんなに迷惑かけずに済むかなって思えるようになったのに
 また みんなに迷惑かけて足手まといになるのがすごく申し訳なくなって・・・。」
「でも、皆さんは迷惑だとか、足手まといだなんていったわけではないでしょう?
 一緒に戦ってきた仲間なんだし・・・。」
「うん、それでね ずっと悩んでいたときにね
 私が初めて作ったチェインを使ってくれてるって人に会ったのね。」
「ええ・・。」
突然切り替わる話に、不思議そうにミーシャを見つめ、話に耳を傾けるセス。
「初めて作ったチェインはね、嬉しくてすごく安く売りに出したんだけど
 あっという間に売れてね。」
「・・・・それはそうでしょうね。」
「でね・・その人がね、言ってくれたの。
 この武器のおかげで、強くなることができました・・ありがとうって・・・。」
先ほどのまでの沈んだ表情とは違い、
嬉しそうに笑みをこぼしながら話すミーシャを優しく見つめながら、
「それは良かったですね。」
ミーシャの笑みにつられるように優しく微笑むセスの言葉にかえすようにミーシャの言葉が続く。
「うん。それでね、思ったの。
 辛いレベル上げをして ひとつづつ免許が増えていくのも嬉しいけれど、
 あんなふうにありがとうって言ってもらえるのもすごく嬉しいなって・・。
 ありがとう って言ってもらえなくても
 私が作った武器を使って、誰かが強くなれるっていくんだよ?
 それってすごいことだと思わない?
 ああ こんな役割ってのもあるんだな って・・・
 今までみんなに迷惑かけきてたぶん、これからは違う形で
 誰かの為になることしたいな って思ったの。
 それで、私はここに残ることに決めたんだ。」
セスはミーシャのそのまっすぐな視線に目を細めながら静かに口を開く。
「すごいですね。そんな気持ちになれてるミーシャが羨ましいです。
 僕も、ミーシャと同じなんですよ?」
涼しい夜の風がふわりと吹き抜け、セスの銀色の髪がさらさらと揺れる。
セスの瞳を見つめ、ミーシャが問い掛ける。
「同じ?私と?」
「ええ。僕も以前所属していたギルドが、他の国へ移住すると言い出して、
 一緒に行こうといわれたのですけどね、正直いって僕はもう
 あんな面倒な思いをしてゼロからやり直すなんてことするのはごめんだって思ったのです。
 それに、プリーストなら、一人になってもいくらでも需要がありますしね
 『支援してやってるんだから経験値をもらって当たり前』って
 思い上がった考えでいました。誰かの為に なんて考えたことも無かった。」
苦笑いしながらはき捨てるように言うセス。
ミーシャは静かに、呟く。
「・・・そうだよね。プリーストは困らないよね。
 私みたいな製造型なんて、一緒に狩りをしてくださいって募集しても
 誰もきてくれないし、募集しているところに声をかけても
 製造なんていらない って断られてばかりだし・・・・・。」
俯くミーシャの頬に垂れる髪の毛を、指先でそっと撫でるように戻しながら、
「でも・・一人でがんばってそのソードメイスの材料を集めたのでしょう?
 頑張っているじゃないですか。」
「ん・・・・強いモンスターをやっつけたり、レアなアイテムを・・手に入れたりとか
 そんなことしなくても・・・。」
「ええ・・?」
「・・・・・・女ってだけで・・・色々と・・お金手に入れる方法は・・あるじゃん?
 男の人でも・・・『そうゆうこと』を、してる人がいるって聞いたことあるけどさ・・・。」
そう言いながら、ますます目を伏せ、
今手元にあるソードメイスを作る材料を手に入れるまでの
おぞましい出来事の数々を思い出す。

「・・・・・・・ミーシャ・・・。」
さきほどから、嬉しそうだったり哀しそうだったり
ころころと表情が変わるミーシャを、
そして今、辛そうに俯いて肩を振るわせる姿が
どうしようもないぐらいにまで愛おしくかんじられ、
思わずミーシャの肩を抱き寄せてぎゅっと抱きしめる。
「・・・っ・・・。ぁ・・・あの・・・?」
突然のことに驚いて肩をぴくんと震わせるミーシャ。
「ミーシャ、僕は・・・・。」
肩を抱く腕に力を込め、耳元にそっと囁く。
「・・・もう少し・・いや・・もっと貴女と一緒にいたいです。・・・迷惑ですか?」
ミーシャは小さく首を左右に振りながら、顔を伏せたまま答える。
「・・・・わ・・・私も・・セスさんと・・・もっと一緒にいたい・・・。」

その言葉にほっとした表情で、ミーシャを抱きしめる手の力が緩み、
「・・・・では、ここでは何ですから・・・行きましょうか。」
ミーシャの手をそっと握り、歩き始める。
「え・・行くって・・どこへ?」
慌ててカートを引きながら手を引かれるままに歩く。


そのまま二人は、言葉を交わすことなく、
宿屋へと足を運ぶ。
幸い、部屋を取ることができ、
部屋に入り二人で並んでベッドの上に腰掛ける。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
もじもじしながら俯くミーシャに、セスが囁く。
「ミーシャ、僕は・・・貴女を泣かせてしまうかもしれません。」
「え?泣く・・って・・・えと・・・。」
戸惑った表情のミーシャに、できるだけ優しい言い方で、
でも、ところどころ語尾を強くしながら
「僕は、『少しだけ意地悪 にしか、できない』 のですよ。
 ・・・貴女が嫌だと言っても、もう止められません。
 僕を嫌いにならないでくださいね・・・・・。」
そう言ってミーシャの顎をそっと持ち上げ、顔を近づけてゆく。

 

 

 

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